不振のテレビ需要が意味すること

 家電量販店のテレビ売り場を訪れると目につくのが超大型テレビ。ひと昔前ならば「画面の対角線の5倍の距離をとって観る」のが常識だった。この基準に従うと「超」が付く大型テレビを置くことができる部屋などそうはないはずだ。大型化と同時に画面の超精細化が進んだために5倍は過去の数値になったのだ。いま家電量販店の業績伸長のブレーキ役になっているのが、売り場では主役になっている超大型テレビなのだ。

 かつてはテレビの国内出荷台数は年間1,000万台、悪くても800万台から900万台、家電業界にとっては花形商品だった。そして2011年7月(東日本大震災の被災3県を除く)のテレビ放送の完全デジタル化前に到来した「デジタルテレビ特需」期(ほぼ3年間)の終了直前にはウィークデーでもテレビ売り場には来店客の長蛇の列。そして各家庭のテレビはデジタルテレビに置き換えられた。それから10年余が経過し「買替え期を迎えたテレビ」だが、市況の低迷から脱することができず家電量販店を悩ませているのだ。

 メーカー団体(工業会)・電子情報技術産業協会によると一昨年(2021年)の国内出荷台数は5,387千台、そして昨年(2022年)は4,866千台と「回復が遅れた」前年よりさらに10%も減少したのである。

 量販店の商品販売額(全商品)でもテレビが足を引っ張ったことは明白である。経産省の「商業動態統計」による「家電量販店の商品販売額」では2011年7月までの「デジタルテレビ特需」後の極端な落ち込みの影響で家電量販店の商品売上高(全体)は低迷が続いた。2017年になりようやく回復の兆しが見えてきた。回復を支えたのはパソコンなど情報家電とスマホなど通信家電、そして出荷台数がかつてのテレビに匹敵するまでになったルームエアコンである。

 その後、コロナ禍でのリモートワークでの在宅時間の増加でテレビも回復するかに見えたのも事実である。2020年の家電量販店のAV機器(映像機器+音響機器)の販売額は上昇している。しかしその後の一昨年、昨年は2年連続で前年実績を割ることになった。そして今年(2023年)の1月、2月も不振だった前年実績を割っている。

なぜテレビ需要は回復しないのか、の答えは次の2点が指摘されている。

  1. 高齢の単身世帯が増加、1部屋1台時代(一家複数台数)の終焉
  2. 若年層を中心にした映像メディアの多様化(いわゆる「テレビ離れ」

 すでに人口は2008年にピークを迎えた。しかしその後も世帯数は増加しており、結果として世帯当たり家族数が減少している。高齢者のみの単身世帯も年々増加、持ち家世帯では空き部屋も増加している。家電品に限らず家族・部屋別に保有・普及してきた商品需要の縮小は不可避となっていた。

 部屋別普及家電品の代表がテレビとエアコンである。エアコンは幸いなことに暖房能力向上による寒冷地・準寒冷地での需要拡大、省エネ性能向上による買替え需要の下支えがあり、テレビのような需要低迷を免れている。

 しかし安閑としてはいられない。第二のテレビにはならないにしても空き部屋増加の影響は近い将来、表面化するに違いない。縮小する家電品マーケット、どう勝ち抜くかを考える時期といえよう。